2007年03月09日

中古のバンが、我が家になった〜原田純夫『パパは動物カメラマン』より

パパは動物カメラマン―北米大陸ファミリー・キャンプ旅行記パパは動物カメラマン―北米大陸ファミリー・キャンプ旅行記
原田 純夫

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『ナショナル・ジオグラフィック』という雑誌がある。アメリカの有名な写真誌で、主なテーマは自然や地球環境、そして探検だ。
この『ナショナル・ジオグラフィック』に作品が載った日本人の写真家は、これまで三人しかいないという。故星野道夫さんと、岩合光昭さん、そして原田純夫さんだ。

二人のビッグネームに肩を並べる原田さんとは、どんな人なんだろう。一体どんな風にしてアメリカ在住の写真家になり、野生動物を追って北米大陸を旅するようになったのか…その一部始終を、原田さん自身がユーモラスに語った一冊が、この『パパは動物カメラマン』だ。

ニホンカモシカの近縁種といわれるマウンテンゴート(シロイワヤギ)。全身真っ白な長毛に覆われた、この野生のカモシカを追って、初めてロッキー山麓を訪れた原田さんは、その生きざまにすっかり惚れ込んでしまった。

僕はアマチュア・カメラマンだが、ゴートの写真集は最高のものを作りたい。ゴートの魅力を100パーセント伝えられるものを作りたい。単に美しいとか、かわいらしいというだけではなく、彼らの生きざまのすべてを人々にぶつけたい。どこまで妥協せずに写真を撮り続けられるか、それが僕のゴートに対する気持ちだと思う。

当時、原田さんは結婚したばかりで、娘の萌さんはまだ1歳だった。東京で日々の暮らしに追われていたけれど、そのうち『ゴートの病気がおさまらなくなってきた』。妻の公美さんに再度のアメリカ行きを相談すると、家族全員で行くなら、という条件付きでゴーサインが。こうして原田さん一家は、ゴートを追ってアメリカ、カナダ、アラスカを横断する、8カ月の子連れキャンプ・ツアーに出発することになった。

現地についた原田さんは、まず中古のバンを買い、簡単な改造をして三人の「家」を作った。8カ月の滞在の総予算は100万円、1カ月あたりの生活費はわずか6万円。近くの渓流でトラウトを釣ったり、現地の人があまり食べないイクラを譲ってもらったり、時には交通事故死したシカを拾って解体したりと、サバイバルな日々が続いたという。

そんな暮らしのなかでの最大のぜいたくは、「時間はすべて僕たち三人のもの」ということだと思う。つまり家庭外から時間に追われることがないのだ。その日の天候、ゴートの状況、食料事情、夫婦ゲンカの程度などによって、撮影、家族ハイク、買い出し、白昼ビール大会などが決定されるのである。

一方で、野生動物の気配を少しでも感じると、原田さんはもう自分を抑えられなくなる。凍えるような突風の中でも、防寒着を着せた萌さんをキャリーで背負い、危険な山道を越えて彼らを追わずにいられない。

ジャコウウシの群れが入っていった小沢を、台地の上から先回りして上流で待つ。
萌はようやくキャリーから開放され、コケの絨毯の上でぎこちなく歩いている。僕たちはジャコウウシの進路が変わらぬことを祈りつつ、ベリーを摘みながら待ちつづけた。
最初の一頭が小沢のカーブから出現した後、彼らは次々と姿を現した。流れに沿って生えている小さなヤナギを採食しながら、ゆっくりとこちらに向かってくる。
大きな顔に、曲がった白い角。背中から地面近くまで伸びた長い毛。全体が毛の塊のようで動きが鈍く見える。そして不気味な力強さを感じる。
ジャコウウシは、マンモスがいた時代から、この不毛の地で生きながらえているのだ。
彼らは採食を続けながら、なおも近づいてくる。ちらりちらりと、こちらを気にしている。公美は万が一の突進を心配しはじめているが、萌は「モウモー、モウモー」と興味深げだ。
近すぎる。先頭の大きな雌ウシがこちらを凝視している。
まずい、もう退こう、と僕が思ったとき、その雌ウシはブルルルと低い息の抜けたような声を発した。それと同時にほかの九頭のジャコウウシたちと走り去った。長い毛をなびかせ、ツンドラの上を舞う姿は、さながら、しし舞いのようだった。(一部中略)

このツアーを契機に、動物写真家として生きていくことを決意した原田さんは、公美さんと萌さんを連れてアメリカのモンタナ州に移住。本格的にゴートを追う毎日を送り始めた…という報告で、『パパは動物カメラマン』は終わっている。

本書の初版発行は1996年だから、すでに10年が経っている。あれから、原田さん一家はどうなっただろう。今も北米で暮らしているんだろうか。そうして、夢のゴート写真集は?…どきどきしながらネットで調べてみると、原田さん運営のオフィシャル・サイトに行き当たった。

その後、原田さんはモンタナに家を建て、家族と一緒に野生動物の写真を取り続けているということだ。ゴートの生態はもちろん、モンタナの雄大な自然や、現地の暮らしぶりを伝えた本を、さらに数冊出版されている。
公式サイトには、原田さんの現在の写真が掲載されていた。『パパは動物カメラマン』当時のあごひげは無くなっているけれど、ロッキー山麓の雪原の中で、今も変わらない夢を追い続けている原田さんの姿がそこにあった。

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posted by ふらら at 10:39| Comment(3) | TrackBack(0) | 書評 旅・ひと・もの作り | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。

「星野道夫」さんの写真集を見て感動し涙がポロポロ出てきたのを思い出しました。

きっと、萌さんも自然や動物を追い求めていく大人になっていくのでしょうね。

「時間がすべて自分たちだけのもの」
これは最高の贅沢ですね。

図書館にも置いてあるかしら?
探してみます。

先日はお騒がせしました。
コメント、嬉しかったですよ。(笑)
Posted by tami at 2007年03月12日 00:13
tamiさん、こんにちは。
再検査、何事もなかったのですね。本当によかったですね!

星野道夫さんの写真集、いいですよね。
見るたびに、胸をつかれるような、鮮烈な印象を受けます。

原田純夫さんも、星野さんのことを
とても尊敬されていたそうです。
Posted by ふらら at 2007年03月13日 10:31
原田純夫のゴートの写真集。本当に上梓される日が楽しみです。
(「モンタナの風〜」のブログのコメントを拝見してこちらを拝読させていただきました)
Posted by Tiger・H at 2007年05月05日 13:53
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